逃げるときは逃げる 恥でもなんでもない

キタサンブラックが逃げて勝った有馬記念のハナシでも、大みそか再放送の「逃げ恥」のことでもありません。災害、トラブルからはとにかく逃げた方がいい。

 

日本で習わない英語の単語で、現地でよく聞く言葉のひとつが evacuate。名詞になるとエヴァキュエーション。vacuumとかvacancyと同じ語源で、明け渡してそこから出て行くイメージ。午後はハリケーンが来くるから、夕方には電車を止める。だからさっさと退社して家に帰ってくれ、というのがevacuation。

台風接近時に出社して帰れなくなる恐れがあるなら初めから出なければいい、というのが米国ではふつうの発想のように思える。また、何時以降は郊外電車の運転を止めるからそれまでに退去せよ、みたいな「命令」をNY市当局が出すこともある。働きたい人は勝手に働いてもいいが、それは自分のリスクでどうぞやってください、お上としては強制はしないものの、公共の安全のためには一定の決定を下すので、そのルールに従ってくれというメッセージ。

 

自由の国アメリカといわれるが、それは自己責任の国という意味。一方で公的機関の判断は非常に重いものであり、公権力の声や力もはるかに大きい。日本は会社から帰らないことで忠誠心を証明するような風土があって、台風でもなかなか帰らない。自分の判断で帰る人はまずいないだろう。だから帰宅時に一気に混乱に陥ることもある。アメリカではそういう「自由」は、公共の利益の前では許さないというところがあり、個人の行動を強く制約してくる。

不適切な例と取られたらお許し願いたいが、あの大地震のときの原発事故もそうで、いくつかの国では自国民の首都圏からの退去を勧奨した。逃げておけば間違いない、という発想。

 

だから危険が予想されたらとにかく逃げる。何を放り出しても逃げる。逃げ方に潔さを感じるくらい逃げる。そういう教育を受けているようだ。

 

このハナシは落ちがない。けさふと思ったのは、12月11日の新幹線のぞみの車両トラブルに出くわした人で危険を察知して逃げた人はいたのだろうか、ということ。

あの列車がもう少しそのままで走っていたら、仮に余分な衝撃が少しでも加わっていたら、高速走行中の新幹線の脱線事故につながっただろう。そうしたら、仮に安全に止まれたとしても、すれ違う新幹線車両とかなりの確率で衝突したかもしれない。

 

いままで大地震のときでも事故を起こしたことがない新幹線の強運に感謝したいが、自分が乗っていたらどこまでリスクを読み切れただろうか。プロの判断は公共の利益を最優先で尊重したものでなければならず、JR西日本の判断ミスは明らか。止める勇気がなかったといわれても仕方ない。

我々がそういう社会に生きていると思えば、危ないと思ったときは新幹線の列車から降りる、通勤電車なら車両を変える、、、。そういう判断もあっていいかも。正反対に思われがちだが、実は日本では海外ほどにはおせっかいにあれこれ指図されないのだ。

しかし飛び立った飛行機ならヤバいと思っても降りられない。大雪で立ち往生した高速道路も降りるに降りられない。一言で逃げるといっても難しい。決まった対処のパターンはない。どんなことがこれから起きるのか、いろんな状況を想定する柔軟な発想力がまず必要で、それに応じた逃げ方を臨機に判断するということか。

年末になってヘンなことを考えてしまった。