やっぱり来ました所得税改革 その5

納得できないことが多くて、もう少し書きたい。

 

「公平・中立・簡素」が税の三原則だとは、財務省のいつものフレーズだ。一方で「社会・経済の構造変化に適した税制」が必要だとも仰る。ならば、所得の捕捉率に問題がある前提で間接税主体の体系を目指すというもの一つだし、所得税のハナシをすれば、より課税ベースを拡大して、薄く広くの税制を目指していたのではなかったか。

 

課税最低限が大きすぎるという議論もあったが、いったいどこへ消えたのか。納税していない人、社会保険料も払わない人から徴収するのはあきらめて、取りやすい、逃げ場ないと思われる、比較的高所得とされる人を狙い撃ちするのか。キャプティブ・オーディエンスという言葉があるが、地下鉄の中で聞きたくない歌を聞かされるのは耐えられない。それなら地下鉄を降りて歩こうかと。

 

慶応大学の土居という先生が、東洋経済に「所得税の控除はなぜこうもフェアでないのか」という一文をしたためておられる。この中で、給与所得控除と公的年金控除の二重取りのことを攻撃しておられる。曰く「年金収入も受けつつ、働いて給与収入も得ている高齢者は、高齢世代の中でも相対的に所得の多い人である。高齢でも所得の高い人の場合、控除の適用額が、若い世代の同程度の収入の者より多い。だから、世代間格差も世代内格差も助長しており、問題といえる」。

 

まったく本末転倒の議論ではないか。

  • 年金収入は天から降ってきたものでも、宝くじに当たったものでもない。過去の勤務に起因するおカネでなければ、公的年金控除は受けられない。自分の稼ぎかあるいは企業が拠出したおカネである。
  • 働いて給与収入を得ているのは、まさに今働いているからもらっているのである。厚生年金などは十分に調整する仕組みが整備されている。返上した分は事実上の課税ではないのか。
  • 2つもらっている人は、過去に働いて、いままた仕事を得て働いている人である。そうでない人と世代内格差があるのは当たり前ではないか。
  • 同じ稼ぎで、若い世代の同程度の収入の者より多い。そうだ、それなら全世代の社会保障をうたう安倍政権なら、若い世代の税負担を軽減して、より子育てしやすい社会を作るべきではないか。
  • 「問題といえる」と締めているが、いまの税制、社会保障、働き方のルールと制約に則って、ベストの選択をしようと知恵と体力を絞って働いてきた人の存在を「問題」というのか。百歩譲って「問題」だとしてその「問題」を作ったのはだれか? 
  • マジメに働いてきた人がいることが「問題」で、年金をもらえるようになったらもう働きませんよ、働かないでください、という社会を作りたいのか。若いときはテキトーに遊んでおいて、年取ってから年金がもらえない人はボロボロでも死ぬまで働けば「二重取り」はないから、そんな生き方もありますよ、ということでいいんだな。

学者さんだから常識もないし、モノの言い方を知らない人が中にはおられることもよく存じ上げている。しかし国民にモノを頼むなら頼み方があるだろう。そういうことをやかましく言う政治家も、官僚も、見識のある経済学者もいなくなった。