やっぱり来ました所得税改革 その4

所得税改革のアドバルーンが上がっている。与党税調の動きも出てきた。給与所得控除を引き下げる一方で基礎控除を引き上げるというのがメーンシナリオで、ここまでは去年も議論になったところ。「雇用的自営」の人に配慮する、というのが一種の甘味料になっている。

 

なるほど給与所得者に比べて事業所得者は控除が実額でしか取れず、不利があるとの見方は成り立つ。だから給与所得者の方を叩いて税収を上げるという発想でいいのか。

 

1.給与所得控除は、クロヨンとかトーゴーサンピンと言われた所得捕捉率のいい加減さを調整する主旨があったはず。大型間接税の導入でそのような不公平を是正するとか言っていたのはいつの日のことか。

2.働き方改革は給与所得者を減らす方向でいいのか。政府は給与所得者、なかでも相当の給与収入のある人はカンタンに職を投げ出すことができず、増税しても無抵抗だと想定している。これは全く甘い考えで、給与所得者が大挙して事業所得者に移行していく可能性もある。あるいは働かないという選択もある。

 

増税政策を取って、現在の構造が続くことを前提に政府がソロバンを弾いてもそうはいかない。世の中はすぐに得な方向へと調整する。企業経営者はますます雇用契約を業務委託型に変えようとするだろう。それで働く側にもメリットがでてくるのなら、真剣にそういう働き方にシフトしていく。セールスマンはみな生保の営業職員のようになるのではないか。労働時間でボコボコ叩かれるくらいなら、雇う側も雇用などまっぴらごめんだろう。

 

もう一つ、60歳を超えて働く人に給与所得の増税は、直ちに離職の引き金になる。いまの60歳代は、すぐに年金をもらえるのである。働かなければ厚生年金は特別支給を満額もらえる。もうみんなアホらしいけど、義理もあって働いているところもある。控除の二重取りのハナシをこういう政策で解決しようとするととんでもないしっぺ返しを受けることになる。

 

方向性はいいかも知れないが、高齢者の雇用は危うい均衡の上に成り立っている。若い人は逃げ場がないが、高齢者はすぐに「働かないという選択肢」に飛びつくことができる。簡素で、働く意欲のある人にフレンドリーな税制をお願いしたい。あまりひねくり回すとロクなことがない。